未来につなぐ飲食店
アルバイトから社員登用増加!? 独自の串カツ検定やDX・教育・人事制度とは-串カツ田中ホールディングス-
株式会社串カツ田中ホールディングス / 坂本 壽男様 代表取締役社長 CEO
― 株式会社串カツ田中ホールディングス ―
居酒屋「串カツ田中」で知られる株式会社串カツ田中ホールディングス。独自のメニューに加え、店舗で楽しめるイベントや2018年6月より居酒屋業態で、いち早く全店禁煙化の取り組みを行いました。ファミリー層もターゲットにした経営戦略により、着実に店舗数を拡大。2016年9月には東証マザーズに上場し、2018年6月にはホールディングス化。2019年6月には東証一部への上場を果たしました。さらに、2021年10月には300店舗の出店を達成しました。
2015年、同社CFO(最高財務責任者)に就任され、2022年6月、前社長の貫啓二氏(現会長)からバトンを引き継ぎ代表取締役社長 CEOに就任された坂本 壽男様に事業への想いや飲食店が抱える課題について、また独自の取り組みを合わせてお話を伺いました。
今回の取材で同社の取り組みには4つのポイントがありました。
この4つのポイントの詳細はインタビューの模様をご覧いただければと思います。
1. 串カツ田中の理念を基に「おもてなし」を最も重要な価値にする
・株式会社串カツ田中の「串カツ田中の串カツで一人でも多くの笑顔を生むことにより社会貢献し全従業員の物心両面の幸福を追求する」理念を基に、お客様から心理的な報酬を受け取り、業績に見合った物理的な報酬も得ることで、物心両面の幸福を追求
2.採用にリファラル制度を積極的に活用し、充実した完全週休二日制で雇用の安定を図る
・リファラル制度の活用に力を入れ、今年は昨年の倍の人数がアルバイトから社員へ転向
・創業当初から完全週休二日制を導入し、週に連続した休みを確保
月火と水木の2グループに分けて休暇の取得
3.店舗オペレーションをDX化することで店鋪業務を可視化。店鋪運営の効率化を図る ・「V-manage」アプリを導入。店長や周囲のスタッフに直接尋ねることなく、アプリを通じて業務工程を確認。これにより教育時間が短縮化され店長職の負担軽減
4.独自の教育制度「KTA」、「串カツ検定」を通じて串カツ田中で働く心構えを学ぶ
・ 教育専門の部署が従業員向けにリモートで講座を実施。「KTA」ではおもてなしの意義や一般常識など、串カツ田中で働くために必要な心構えを学ぶ
・串カツを、いかに美味しく・見栄えよく・迅速にお客様へ提供できるかを審査する社内検定の実施。検定の合格者は階級に応じたインセンティブ(最高5万円)の支給
「おもてなし」が最も重要な価値観
--事業への想いや企業価値についてどのようにお考えですか?
(坂本社長)
株式会社串カツ田中の理念は「串カツ田中の串カツで一人でも多くの笑顔を生むことにより社会貢献し全従業員の物心両面の幸福を追求する。」としています。この理念を基に当社は「おもてなし」を最も重要な価値としています。お客様をもてなすことによって、笑顔を引き出し、美味しかったという喜びの声をいただくことで、従業員は幸せな気持ちになります。この喜びとやりがいが、さらなる努力や成長へとつながりますし、心理的な報酬を受け取り、業績に見合った物理的な報酬も得る。まさに物心両面の幸福が追求できる、そう考えています。
リファラル制度の強化と従業員の満足度を高める取り組み
--人手不足問題について。御社では採用時にどのような工夫をされていますか?
(坂本社長)
採用活動においては求人媒体や人材紹介も使っていますが当社はリファラル制度に力を入れています。今年は昨年の倍、リファラル制度でアルバイトから社員になっていただいています。
人材確保に関してはこれまでは年間で100人程の採用を行っていましたが、今年は約60人の採用を考えています。その中で新卒採用は約10人です。新卒採用は4月に一斉に入社するため、即戦力も必要ではあるものの過剰な採用は避けるようにしています。出店の状況も考慮しながら、新卒採用は10人から20人程が適切だと考えています。この人数をしっかりと丁寧に育てていきたいと考えています。
--御社では離職率を下げ、雇用安定に向けた取り組みはされていますか?
(坂本社長)
当社では創業当初から完全週休二日制を導入しており、週に連続した休みを確保することができます。この取り組みは外食業界では珍しく、他の同業企業には見られない待遇です。具体的には、スタッフを月火休みと水木休みの2つのグループに分けています。
さらに、福利厚生面では、アルバイトを含めた従業員約600人が参加する運動会などを開催しています。楽しいことをとことん楽しむ。従業員の満足度を高めることとして取り組んでいます。
ほかには、「HOMEトーク」という取り組みも行っています。これは社内のSNSを活用して、従業員同士がお互いに褒め合う取り組みです。ここでは特に「おもてなし」と「笑顔」に関する言葉が頻繁に使われているのも特徴ですね。この取り組みを通じて従業員同士のコミュニケーションを促進し、お互いの成長とモチベーションの向上を図っています。
例として、お客様へ最もおもてなしが出来ている店舗を決めるキャンペーンを実施しました。
店舗で従業員がお客様一人ひとりに声をかけ、店舗の良い点についてアンケートへのご協力をお願いし、お客様からは「この従業員が素晴らしい働きをしていた」といった意見をいただいております。このアンケートを基に社内コンテストを実施し、優秀な店舗には表彰状を授与しました。
企業独自の教育制度と多角的な評価制度
--社員研修や店舗オペレーション、評価制度など工夫されている取り組みはありますか?
(坂本社長)
新入社員の教育面においては、これまでは研修専門の店舗を活用していましたが、現在はその仕組みを改善する方向性を模索しています。具体的には、新入社員や中途の新入社員を一人ひとり大切に育成する方針に切り替えており、各エリアで教育能力に長けた店長がいる店舗へ約1カ月間の配属を行い、そこでの学びを通じて成長していただいています。
新人アルバイトへの教育面については、店舗が忙しい時に新人アルバイトが店長へ質問しにくいという課題がありました。その課題を改善するため私たちは「V-manage」というアプリを活用しています。これにより、新人アルバイトは、店長や周囲のスタッフに直接尋ねることなく、タブレット上で業務情報を確認できるようになりました。その結果、店長職の負担軽減にもつながっています。
このアプリは、直営全店で導入しており、まもなくフランチャイズ全店にも導入予定です。
そして教育制度には「KTA」があります。
「KTA」は串カツ田中アカデミーの頭文字をとったものです。「KTA」は教育専門の部署が従業員向けにリモートで講座を実施しています。ここでは、おもてなしの意義や一般常識など、串カツ田中で働くために必要な心構えを学びます。「KTA」は主に新入社員や中途入社の社員を対象に行われています。現在、必修科目として5つの項目が設定されており、これらの講座は月に1回の頻度で受講していただいています。
評価制度は売上だけでなく、衛生管理チェックや覆面調査による声、従業員の人間力や組織内での協調性など、多角的な視点で点数付けを通じて公平な評価を実施しています。これにより、従業員の全体的な業績と貢献度を評価し、個別にフィードバックされ、成長のための具体的な改善点や目標設定にも反映されます。
また、当社独自の制度で「串カツ検定」があります。私たちは串カツ専門の居酒屋ですので、お客様に美味しく、見栄え良く、迅速に串カツを提供しなければなりません。串カツ検定は、それを審査する社内検定です。この制度は3級から最高師範までの6段階の階級があり、合格者には階級に応じたインセンティブが最高で5万円支給されます。審査はエリアマネージャーによって行われます。上位の階級に到達すると、串職人の称号として特別なTシャツを贈呈しています。
--これから従業員に向けた面白い取り組みを始められたそうですね。
(坂本社長)
KTリーグという人事制度を作りました。当社が運営する「串カツ田中」は、2023年の営業スローガンとして「More fun More fan(もっと楽しく もっとファンに)」を掲げています。このスローガンはお客様、従業員の双方に向けられています。飲食店が存続していくためには、従業員が最高のおもてなしをしてお客様の笑顔を生み、お客様が店舗を応援し支えてくださることが重要です。それらが従業員の働きがいや笑顔へと繋がるためです。そうした“関わる人すべてが「もっと楽しくもっとファンになっていく」店作り”をしていくための人事制度となります。
この人事制度が誕生したキッカケは、新型コロナウイルスの流行によりお客様が店舗に来ないという困難な状況に直面したことが背景にあります。この状況下では売り上げの向上が難しく、従業員の皆さんにとってもやりがいを感じることが難しい状況でした。
そのために、私たちはやりがいを再確認し、競争心や闘争心を取り戻すための制度を作りました。これを通じて、従業員の皆さんに再び仕事への情熱を持ってもらい、目標に向かって奮起していただきたいと思っています。
KTリーグは約150店舗をエリアごとにKT1、KT2、KT3の3つのリーグに分けます。ポイントを競い合うことで順位付けし、半年ごとに上位リーグへの昇格・もしくは下位リーグへの降格の基準を設けています。基準は売上だけでなく、お客様の満足度(アンケートや覆面調査)をポイント制にして、ランキングへ反映します。
さらに、ボーナスポイントとして従業員がどれだけリファラルを行ったかなども評価対象としています。また、地域密着型の営業を促進するため、地元の企業や商店とのスポンサーシップを結んでいきます。例えば、スポンサー企業の名前を店舗の制服や前掛けなどに入れて勤務します。スポンサー様からは月で約1万6千円〜5万円の支援をいただき、その一部を従業員に還元します。これにより、スポンサー様を増やすことができれば従業員の所得向上や働きがいと笑顔へ繋がり、地元の企業も認知度を高めることができる仕組みになっています。
当社は「おもてなし」を軸に、今回お話しさせていただいた取り組みを推進させていくことで、更なる事業価値向上を目指していければと考えております。またそれ以外にも新しい取り組みを行っていくなど、外食企業の抱える課題に向き合っていきたいと思います。
店舗情報:串カツ田中 世田谷店(代表店舗)※写真は創業当初の様子 / 住所:東京都 世田谷区 世田谷1-16-16
写真提供:株式会社串カツ田中ホールディングス / 取材、執筆:秋山直子