100年後も続く企業へ ― 株式会社ファンゴ-―
時代を超えて、柔軟な発想で未来を切り拓く
株式会社ファンゴーは、東京都世田谷でオリジナルのサンドイッチやハンバーガーを提供する「FUNGO」のほか、イタリアンレストラン「FUNGO DINING」やアップルパイ専門店「GRANNY SMITH APPLE PIE & COFFEE」、日本酒専門店「酒 秀治郎」などの人気店を運営しています。
独自のコンセプトに基づく商品やサービスの提供に注力する同社は、各ブランド店舗において多くのお客様に支持されています。
どのようにして現在のビジネスモデルが確立したのでしょうか?
企業の想いや飲食店が抱える課題について、同社代表取締役 関 俊一郎様にお話をうかがいました。
アメリカにあって日本にない商品で勝負したい
-飲食業に携わるきっかけをお聞かせください。
(関代表)大学時代にアメリカのカリフォルニアで過ごしていた経験が大きく影響しています。アメリカでは毎日のように様々な種類のサンドイッチを食べていました。日本で食べていたサンドイッチとは、挟み方も食べ方も全然違う。当時アメリカで食べていたサンドイッチは自分好みにカスタマイズすることができました。日本にはまだその様な文化はありませんでしたので、パンの種類やトッピング、ソースを変えることで自分だけのオリジナルサンドイッチを作れることが楽しかったです。テイクアウトしたサンドイッチと、カフェラテを買ってよくアメフト観戦をしていました。
日本に帰国して2年ほど経った頃、アメリカで味わったサンドイッチを再び食べたいという思いが湧き上がり、サンドイッチやカフェラテを提供できるお店を開業してみたいという気持ちが自然と芽生えてきました。日本にはまだBLTサンドイッチやクラブハウスサンドイッチがなかった時代です。アメリカにあって日本にはない商品で勝負がしたいと思いました。
私が滞在していたカリフォルニアは気候が穏やかで温暖な街でした。当時を思い出し、室内ではなく自然を感じながらサンドイッチを楽しんでいただけるようにと、東京の世田谷公園前に「FUNGO」をオープンしました。
―会社名でもあるファンゴーはどのような想いで名付けられましたか?
(関代表)サンドイッチを気持ちの良い大空の下で食べて欲しい、食べることを楽しんで欲しい。企業名を考える時、そのようなシチュエーションをイメージしました。「FUN」は楽しいという意味。「FUNGO」はアメリカのメジャーリーガーの間で「ノックする」という意味合いで使われます。「GO」は行動を意味するなど、楽しくアクティブな雰囲気を持つ言葉を使用し、「Going to be fun!」=「楽しくいこうよ!」というメッセージを込めています。ポジティブで活気のある意味合いが、サンドイッチのイメージにマッチすると思い店舗名も「FUNGO」にいたしました。
課題に取り組む姿勢を継続
―競合他社が多い飲食店で会社が成功、発展するために行われたことは何ですか?
(関代表)簡単に上手くいく方程式のようなものはありませんが、多くの努力はしてきました。一つ一つ出てくる課題に対して徹底的に向き合い続けて、今日に至ります。例をあげて言うと、創業した1995年頃は犬を店舗に連れてくる習慣が日本にはありませんでした。アメリカではカフェやレストランなどの公共の場所に犬を連れていくことは一般的とされています。これは、アメリカ社会でペットが重要な存在と見なされていることや、ペットとのコミュニケーションが人々の健康や幸福感に良い影響を与えると考えられているためです。しかし、文化の違う日本ではお客様からクレームが入ります。開業した初年度は3回程、お客様から保健所に「店に犬がいる」と通報されてしまいました。保健所からの電話や確認の訪問もありました。衛生管理など法のルールは守ったうえで、お客様に丁寧に説明を行い、納得していただけるよう努めました。
自分が良いと信じて取り入れたことを、クレームがあったからと言って、すぐに見直したり変更したりすることはなく、自信を持って取り組み続けました。このように課題に取り組む姿勢を継続し振り返ってみると、今年で創業28年目を迎えることができました。
―30周年が目前ですね、長く経営されてきた中で困難だと思われたことはありますか?
(関代表)困難だったことは山ほどあります。店舗に泥棒が入ったことや詐欺被害に遭ったこともあり、心を痛め大変な思いをしました。それ以上に私たちが直面した極めて困難な問題は、外部要因による影響が大きかったと思います。
リーマン・ショックが起こった2008年、東麻布にレストランを開店しましたが、開店直後から外国人客の数が減少し、厳しいスタートになりました。当時、東麻布は外国人が多く滞在しており、ターゲット層として意識してレストランを開業したため、偶然とはいえリーマン・ショックが起こったことに深い衝撃を受けました。
その他に東日本大震災やITバブルの崩壊、そして今回のコロナウイルスです。自分達ではコントロールができない、他の誰にも頼ることができない状況に直面しました。それでも何とか対応し、乗り切るためには解決策を見つける必要がありました。
直面した大きな壁に対して、私たちは皆でアイデアを出しながら試行錯誤を重ね、可能なことは迅速に決断し実行してきました。コロナ禍でいえば、テイクアウトやデリバリーなどです。結果として、判断を先延ばしにすることなく、毎日少しずつでも事業を進めることができたことが、良い方向へ道を切り開いてくれたと感じています。
自己成長を目的に挑戦ができる人を増やしたい
―飲食業界全体で人手不足という課題がありますがどのようにお考えですか?
また、雇用を安定させるための取り組みはされていますか?
(関代表)人手不足については当社でも定期的に直面する課題です。当社は5年ほど前から店舗数が増え、企業が成長してきた時点で、組織のパフォーマンスを向上させるため人事戦略に積極的に取り組みました。具体的にはクレド(企業の価値観や行動指針をまとめたもの)を作りました。
企業の成長には、現場スタッフがお客様と直接接することで売上を拡大し、利益を上げることが不可欠です。そのため、現場スタッフが最大限の力を発揮できるような環境を整備し、スタッフのスキルアップする取り組みを行うことが重要です。
店舗においては、常に全てのスタッフが望むような環境や仕事内容に配属されるわけではなく、技術や能力にも個人差が存在します。しかし、チームワークを大切にし、協力しながら仕事を進めることが重要であると考えています。
クレドの中にある行動指針で大事にしていることの一つに「シェア」があります。チームワークという意味でも現場で起きている問題を早急に検知し、皆とシェアしています。その理由は、同じような問題が他の店舗でも発生する可能性があるためです。日報やメールなどを活用し、その日に起きたことを嬉しいことも含め、タイムリーな情報として皆で共有できるように意識しています。
―どのような人と一緒に働きたいと思われますか?
(関代表)求める人材にはスキルや経験も必要ですがそれ以上に、自主的に責任をもって仕事に取り組める人は大事にしたいと思います。
「コミットメントがあって、自己成長を目的とした挑戦ができる人を増やしたい」という思いから、失敗を環境のせいにしない人材を求めています。自己成長意欲が高い人は成長できます。目標に向かい挑戦を続けること。私たちはこのような人材が自己実現できる企業であることを目指しています。
―スタッフの教育やコミュニケーションの取り方で工夫していることはありますか?
(関代表)お客様に対する基本的な接遇マナーや心構えを入社時、スタッフに伝えています。その他のオペレーションに関しては、各店舗で必要に応じた教育を実施しています。当社ブランドの「おばあちゃんの味」をコンセプトにしたアップルパイの専門店である「GRANNY SMITH APPLE PIE & COFFEE」は、関東を中心に11店舗展開していますが、全店舗で同じレベルのサービスが提供されるよう、店長会で方針や課題について共有しています。
スタッフ間のコミュニケーション、これも一つの大きな課題だと思っています。当社では、チーム内のコミュニケーションを円滑に行うため、スタッフ同士や上司と部下との相性を考慮した配慮を行っています。必要に応じて、配置換えなどの調整を行い、協力し合いながら仕事を進めることを心がけています。
また、店長は日々マネジメントの課題や悩みを抱えています。店長会を通じて相談を受けた際は、できる限りフィードバックをするようにしています。多様なスタッフが在籍しているため、受け止め方や価値観、大事にする判断基準には個人差があります。そのため、私はできるだけ命令口調にせず、スタッフの意見を尊重し、寄り添った助言ができるよう努めています。言いやすい環境を作ることで、スタッフが安心して相談できるようサポートしています。
お客様と共に歩む、グローバルなビジネス戦略
―今後コロナが落ち着き、また外国人観光客が増えると言われています。
インバウンドへのお考えや、どのような対策をされているかお聞かせください。
(関代表)当社は創業以来、海外のお客様にも来店いただくことを前提に経営戦略を立てています。英語表記のメニューを標準としていますが、今後はインバウンド需要の増加が予想されるため、英語に限らず、より多様な言語に対応することが必要だと考えています。
また、来店される海外のお客様は、ガイドブックではなく自身の信頼できる友人や家族、口コミサイトを参考にして来られます。彼らが日本の文化や料理を楽しむために、事前に多くの下調べをされていることに驚かされます。日本人以上に多くの知識を持った方もいらっしゃるほどです。このようなお客様に対して積極的にアプローチし、店舗がターゲットにする客層に最大限の満足を提供するように心掛けています。
例えば、当社は和をテーマにした店舗を一つだけ展開しており、完全予約制の日本酒専門店「酒 秀治郎」を運営しています。店舗は、日本酒を楽しむお客様から高い評価をいただき、1ヶ月先まで予約が取れないほどです。
「酒 秀治郎」は店舗が指定する時刻にコースが開始する個性的な営業スタイル。料理はおまかせコースとして豊富な日本酒に合わせた料理を提供しています。メニューを見て注文することはありません。ですから事前にFacebookや口コミサイトで店舗情報を確認してからご来店いただくことが多いです。実際にリサーチをし、来られた海外のお客様からは、日本文化に触れられることや、どの料理を頼んだらいいか迷わずとも、お酒に合う料理が出てくることに驚きと喜びを感じていただいています。
課題を解決してきた経験と知恵
―企業の強みは何でしょうか?
(関代表)当社のクレドには、企業価値であるバリューがあります。その項目は、まず社名にも含まれる「FUN(楽しむこと)」、次に「グローバル」、そして「ユニバーサル」の三つです。このうち「グローバル」は、世界中のどこに存在していても受け入れられる価値あるものを提供することを意味し、「ユニバーサル」は、普遍的であり、100年後にも価値が変わらないことを意味します。この3つの項目を忠実に守ることが重要だと考えています。
私が先程話した「酒 秀治郎」などの日本酒専門店は、個人的にはグローバルでユニバーサルな店作りの例であると思っています。当社の各ブランド店舗は、独創的で優れたオリジナリティを持っています。私たちは、本質的にお客様にとって本当に良いものであるか、喜ばれることが何かを徹底的に考えることが強みです。
当社はこれまでの様々な体験を通して、お客様目線で課題を解決してきた経験と知恵を持ち合わせています。これが当社の特徴であり、企業の生産性を高め利益を生み出す力になっています。
柔軟な組織と発想力を備えた企業へ
―『つなぐ』という観点で今後の事業をどのようにして未来に繋いでいきたいとお考えですか?
(関代表)「ユニバーサル」(普遍的で、100年後にも価値が変わらないこと)は当社が大切にしている価値観であり、将来にわたって維持したいと考えています。過去28年間、コロナウイルスなどの外部要因によって多くの困難に直面しましたが、今後も異なる課題に直面することが予想されます。しかし、柔軟な組織と発想力を備え、さまざまな状況に適応することができる企業でありたいと思っています。
強い信念を持つことも大事ですが固持すると時に誤った判断をもたらすこともあります。
柔軟性を持ちながら価値観を守りつつ、常に変化に対応し、ブランド価値を維持し、次世代へ残したいと考えています。また、SDGsに対応した取り組みを行い、進化を目指すことで、より良い未来を創造していきたいと思います。
店舗情報:GRANNY SMITH APPLE PIE & COFFEE 青山店(代表店舗)東京都港区南青山5-8-9
【取材後記】
長期的な企業発展には、一つ一つの課題に自信を持って取り組み、挑戦を継続することが不可欠であることや、創業後の28年間、お客様のニーズに真摯に向き合い、そのニーズを満たすために培われた経験と知識が企業の強みであることを今回のインタビューでお話しいただきました。アップルパイの専門店や日本酒の専門店など、お客様目線で追求した商品やサービスがあるからこそ、現在も多くのお客様から高い支持を得ているのだと思います。