10年後も地元に愛される店に
-株式会社カワード・チャレンジ-
気軽に楽しめる『行きつけの店』を目指し続ける
神戸、三宮を中心に、割烹料理の味を居酒屋の価格で提供する割烹居酒屋「くずし割烹 こまじろ」、「魚のじげん」などを含む7店舗を展開している株式会社カワード・チャレンジ。どの店舗も“いつ 誰でも、気軽に行けるお店 ”をコンセプトにした、地元の人々に愛されている人気店です。
経営難で苦しむ飲食店も多いなか、コロナ禍でも着実に業績を伸ばす店舗もあります。
その背景には、どのような想いや取り組みがあるのでしょうか?昨年、坪月商70万円を超える好調店を展開する株式会社カワード・チャレンジ代表取締役 新井翔碩様に事業推進についてお話をうかがいました。
失敗からの気づきと成長
-飲食店を始めたきっかけは何でしょうか?
(新井代表)私は若い頃に飲食店でアルバイトをしていました。どうしたらお店がもっと良くなるか、自分ならどう考えるのかをイメージしながら常に働いていました。どんなことも自分でやってみたいという気持ちが地層のように積み重なり、自ずと店を構えることに繋がったのだと思います。
これまで事業の運営で困難に思われたことはありますか?
(新井代表)困難なことだらけでした。創業時は、会社を経営していくための経費管理や人間関係の作り方なども、何もわかっていなかったように思います。がむしゃらに頑張り過ぎて、自分の身体をいたわることもできていませんでした。様々な経験が足りていないこと、人を雇う難しさ、全てにおいて自分の実力のなさを思い知らされました。
-その困難を、どのように乗り越えましたか?
(新井代表)初めて、しっかり本を読みました。経営学では松下幸之助氏や、稲盛和夫氏のもの、マネジメント、プランニングについて、自分に必要だと思う様々なビジネス書を読みました。
私がこれまで順調だったのは、周りの人に助けられていたおかげだと痛感しましたし、自分自身がもっと人として成長しなければいけないと感じました。
私が店に立って一生懸命に働く姿を従業員に見せることで、私についていきたいと思ってくれる人が増え、次第にお店の雰囲気は良くなりました。
安心して働ける環境づくり
-飲食業界全体で人手不足という課題がありますが、どのようにお考えですか?
何か対策はされていますか?
(新井代表)当社にも人手不足という課題はあります。今後も続く解決し難い問題です。
私は従業員に対し、安心できる環境で働いてほしいと考えています。安心とは、法で定められた労働時間や休暇、有給制度、適正賃金の支給です。人が足りないからといって、誰かに負担を負わせるような働き方は回避しなければいけません。これらは当たり前のことですが、深刻な人手不足の影響で苦心する店も多いと聞きます。
次に心の安心です。会社がどれだけ素晴らしい理念をもっていても、直属の上司が何も理解できていなったら、その下で働くアルバイトの人達は辛い状況になります。毎日顔を合わせるわけですから意見が合わず重苦しい雰囲気だと、楽しみながら働きづらくなります。私はお店で一緒に働く人から受ける影響力は非常に大きいと思っています。アルバイトの人達が今何を考えているかを常にイメージしてほしいと社員達に伝えています。
どのような人達と一緒に働きたいか、どうすれば楽しく働くことができるか、従業員の誰もがそう思っているはずです。私は皆が長く働きたいと思える環境を整えることが一番の役目だと思っています。
-面接や採用時に留意していることはありますか?
(新井代表)最も重視しているのは人柄です。多くの経験や豊富な知識よりも、優しさや素直さを持っている人の方が、人としてぐんと成長するように思うからです。
人はどこかで必ず苦境に直面します。その時に、出来ない自分を素直に受け入れ、自分なりに工夫して、やり方を変えて挑戦している姿に私は胸を打たれます。
-入社後、教育面で工夫している取り組みや、コミュニケーションの取り方はありますか?
(新井代表)決められたマニュアルや取り組みはありません。私は従業員の方々に、もし「飲食店がなかったら?」「外食ができなかったら何をする?」と仮説立てた話をします。
外食は、医療や教育のように、生きていくうえで必ず必要なものではありません。しかし、外食がなければ何の楽しみもなくなるのではないでしょうか。私は外食を、日常に感動を与える一番大切な娯楽だと思っています。
私達は外で誰かと会う時に、食事をセットにして計画を立てます。楽しい時間の延長に飲食店があり、思い出作りの手段としてお店をご利用いただいています。そのお店で自分が迎えてもらう時、店員がどんな対応をしてくれると嬉しくなるか?感動するのか?「自分に置き換えて考えてみて、嬉しいことや楽しいことを一緒に追求していこうよ。」そう従業員の方々に伝えています。
当社は店舗メニューを考える際も、社員全員で意見交換します。皆が美味しいと思えるか、納得できる金額か、適正な量か、細部までこだわります。誰が、どういう時に食べたくなるか、相手の気持ちを皆で追求することで、より良いサービスにつながると思っています。
その他にトークノート(社内SNS)を毎日更新しています。私が考えていることや課題、提案などを発信して従業員の方々に理解をしていただいてます。運営方針だけでなく、接客や問題解決の提案についてなど自由に発信しています。
お店の仕事は全員ですると意識していますので、代表や店長など役職に限らず雑務や食器洗いもします。せっかく働きに来たのに、一日中同じ事ばかりすることがないよう気にかけながら皆で協力する姿勢を大切にしています。
メニューや量で食品ロスを出さない工夫
-今後コロナが落ち着き、また外国観光客が増えると言われています。インバウンド対策や、SDGzの取り組みは、何かされていますか?
(新井代表)インバウンドについて、実は何も対策はできていないです。神戸は京都や大阪に比べて海外のお客様が少なく、これまでは日本のお客様と同様の接客でやってきましたが、時代の変化とともに考えなければならない課題であると思います。
従業員が対応しなくてもタッチパネルオーダーや、キャッシュレス決済ができる環境があるのは知っています。しかし、我々の規模だと大きな設備投資をすることは現実的に難しく、私達がすぐに出来ることは、全てのお客様に楽しんでいただけるよう、真心をこめて接客をすることです。環境面でいうと、コロナ以前から食材を無駄にしないことには徹底しています。素材に捨てるところはほぼないと思っています。季節ごとに変わる素材を、いかに美味しく無駄なく使い切るか、メニューや量でも工夫をしています。どれくらいの量で一日をまかなえるかは、しっかりと把握ができているので当社では食品ロスはほとんど発生していません。
変化に対応できるからこそ強くなる
-企業の強みは何でしょうか?
(新井代表)強みはあえて意識していません。これを売って稼いでいこう、企業とはこうあるべきという、強い固定観念を持っていませんし、作らないのです。強みがあるから強いのではなく、何もなくても変化に柔軟に対応が出来ることが強いのだと、私は思います。
時代に合わせてその時々にお客様に良いと思ったことを、少しずつ取り入れていく。
変化に上手く対応できる企業でありたいと思っています。
私達は今、とにかく仲が良いです。理解をしてくれる従業員達とともにこれからも一緒に成長したいと思っています。
-従業員にはどのような人になってもらいたいと思いますか?
(新井代表)アウトプットが出来る人になってほしいと思っています。技術や知識をインプットするだけではなく、人に教え伝えていくことを学んでほしいと思います。そうやってアウトプット出来る人ほど成長が早いからです。
人を導き、動かせる人は、飲食業界から離れたとしても、どこの場所でも成功すると信じています。人に聞き入れてもらうには人を思いやる優しさが必要です。従業員の方々には、優しく人を導くことのできる人になっていただきたいです。
10年後も地域に愛され続ける、行きつけの店
-『つなぐ』という観点で、今後の事業をどのようにして次世代に繋いでいきたいとお考えですか?
(新井代表)私達は、地元のお客様が足を運べる場所で喜んでいただける店であり続けたいと願っています。誰がいつ行きたくなるか、どのようなものを食べたくなるか、どうしたら皆が楽しくなれるかを熟考して出店しています。そして今後も「美味しい味」と「真心を込めたサービス」を提供し続けます。
10年後も私達の想いは変わりません。いつでも誰でも、気軽に行ける、行きつけの店であり続けたいのです。いつまでも私が代表でいたいとも考えていません。なるべく早く、今いる社員に会社を引き継いでいただきたいと思っています。
未来に繋ぐための世代交代です。時代の流れと同じで、古い人から去っていくのは自然なことです。従業員達がしっかりと技術と知識を学んだ後は、自信を持って店を構えてほしい、楽しみながら新しい道を選択してほしいと願っています。
店舗情報:くずし割烹こまじろ(代表店舗) 神戸市中央区北長狭通2-8-9 神戸17番ビル 2F
【取材後記】
多数の飲食店がある街で、お客様は目的やメニュー等によりお店を選べる時代です。お客様目線のこだわったメニュー作りは他店との差別化にもつながります。今回の対話で、お客様に満足いただくために皆が自分に置き換えて、嬉しいことや楽しいことを一緒に追求する大切さ、安心して働く環境を整える必要性についてお聞かせいただきました。運営に固定観念を持たず、その時々でお客様に喜んでもらえる方へ柔軟に変わっていきたいという想いが伝わり、強みを意識しなくとも、無意識に大切にしているものを持つことも強みになるのだと感じました。
写真提供:株式会社カワード・チャレンジ / 取材、執筆:秋山直子