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550年の歴史が育んだ『寶』の味、そして次世代の幸せを創る店づくり。- 本家尾張屋-

『寶(たから)』の味を守り続ける菓子と蕎麦

 本家尾張屋 —京都で創業550年以上の老舗店、次世代の人々が幸せになる店づくり 

 

京都地下鉄烏丸御池駅すぐ近くに店舗を構える『本家尾張屋』は、創業550年以上も続く菓子屋と蕎麦屋。1465年菓子屋として始まり、その後麺切りの技術が広がり初代当主が1703年に蕎麦屋をはじめ、一つ屋根の下で菓子屋と蕎麦屋を作る今の業態になったそうです。
江戸時代後期、御所への出入りを許されていた店が名乗ることを許された総称である「御用蕎麦司」として御所にも蕎麦を納め、京都の歴史とともに550年以上人々の暮らしに寄り添う菓子屋と蕎麦屋として愛されてきました。

二本柱を営む運営にどのような想いが込められているのでしょうか?
本家尾張屋の16代目当主として、また同時に写真家としてもご活躍されている稲岡亜里子当主にお話をうかがいました。

『小さく強く』時代に合わせた逆転の発想

―先代から当主を引き継がれて運営方法の違いや困難に思われた点、それに対する16代当主としての想いや取り組みはありますか?

(稲岡当主) 2009年に稼業を継ぐと決めてから、先代からはわずかな時間の中でそれまで受け継いできた経営について教わりました。そして代を継ぎ、時代の変化に合わせた商品開発やサービスなどの新しい挑戦に前向きに取り組んでまいりました。先代、先々代の時代は会社を大きくしていく運営方針でした。社会全体が事業拡大という流れの中、私はリーマンショックの影響や、日本の人口減少化や、温暖化、そしてコロナの社会的な問題もあり、会社を大きくすることよりも今は『小さく強く』したいと思いました。

小さく強くすることをネガティブに捉えるのではなく、会社を守っていく責任者として前向きな意味のある決断と考えております。経営側と従業員、お客様、それぞれの視点が違う以上、全てを理解してもらえないことも正直あります。一番身近で尾張屋を支えてくれている従業員に対しては運営方針を丁寧に説明し、お互いを理解し合う時間や努力も大切にしています。

責任者である私が下す決断で、その時はマイナスに見えたことだとしても先に繋がる結果としてはプラスになる、そのような状況を作っていく責任は非常に大きいと思っています。

持続可能な『価値』を次世代に繋げたい

会社を小さく強くされたいと思われた根源はなんでしょうか?

(稲岡当主)事業拡大をすることで、より多くの人を幸せに出来るかもしれません。私も多くの人に蕎麦という食文化を通して幸せになっていただきたいと思っています。しかし自分の目が届く範囲にも限界があります。このグローバルな時代に、早いスピードで変化をする京都の老舗当主として守るべきものは、尾張屋という会社がサステナビリティ(Sustainability)な価値感を大切に長年存続してきたことであり、これからも未来に続く会社として貢献し続けることです。これは弊社の理念でもあり、品質やサービスを大切に守っていくとともに、人々の幸せが継続する社会になって欲しいという願いから、小規模でも永く揺るがない店舗運営を目指しています。

蕎麦の可能性 重要なのは環境や健康への意識

―尾張屋におけるサステナビリティとはどのようなことでしょうか?

(稲岡当主) 尾張屋の素材は一つ一つに、人の手間が掛かっており、大量生産ではなく、自然に近い素材を使用しています。より有機なものへとこだわり、身体に良い食は、マインドも健康にします。そんな蕎麦一杯で、こころも身体も感動してもらえるものをお客様に提供したいと思っております。完璧は無理でも、選べるところから、なるべく地球環境に良い、より身体にいいものを提供し、食していただく蕎麦で健康にも繋げてもらう、そのような貢献で喜びを少しずつ広げていけたら大変嬉しく思います。

通常、蕎麦は『麺』として食べますが、それ以外の食べ方はあまり浸透していません。蕎麦の実は、パワーフードとしても非常に魅力的な食べ物です。健康志向が進む今の時代、以前よりも多くの方が蕎麦に興味を持たれています。私は、麺としての蕎麦だけではなく、『蕎麦』という一つの植物としてのカテゴリーで、より広い世界に向けて、発信を打ち出していきたいと考えています。先代までが守ってきた飲食業という枠だけではなく、蕎麦を通してよりいい環境と健康を応援する会社として成長していきたいと願っています。

―今後コロナが落ち着き、京都にもまた多くの観光客が訪れると言われています。何かインバウンド対策はされていますか? 

(稲岡当主) 従業員は外国人観光客の対応にも慣れていて、日々意識高い接客でお店を守ってくれています。これからの私の試みは、海外のお客様が持ち帰っていただける蕎麦商品をより充実させること。そして世界各国のご自宅に戻られてからも、蕎麦商品をどのように調理し、楽しんでいただけるかを発信していきたいと思っています。海外にも商品が届けられるECサイトや、海外で蕎麦が食べられるレシピ、蕎麦の実の使い方など、蕎麦文化を広めていく準備をしています。

コロナ禍で考えた人手不足への課題

コロナ禍でライフスタイルも働き方も大きく変化し、個々の事情で働き方が選べるようになりました。今の時代の働き方について考えをお聞かせください。

(稲岡当主) 飲食業界全体の問題でもあるとは思いますが、コロナ前からの日本の大きな社会問題でもある人材不足は、会社を小さくする理由の一つでもあります。品質とサービスを守るためには充分な数の従業員と、また彼らが満足して働ける環境づくりも大切です。

働く人々の意識もこの数年で大きく変わりました。やり甲斐を感じる仕事、自分が属する会社の方針や理念も大切なことだと思います。採用時点で自社理念に共感してくれる人が、入社してくれることが望ましいですが、コロナ禍では簡単に人が採用できる状況ではありません。人材を確保することと、会社の理念に共感してもらい、長く働いて幸せになってもらいたいという想いとの両立にいつも苦心しています。

教育面で何か工夫されていることはありますか?

(稲岡当主) 私は従業員自身の自主性を大事にしています。言われて従うのではなく、個々の意識や気持ちがとても大切だと感じるからです。従業員一人一人が声を掛け合い、どのように責任を果たしていくかを考えていただいています。

従業員自身がこうでありたいと理想を持ち、力を付け、仕事を楽しんでもらうことが大切です。各々が仕事を工夫し、お互いの良い姿を真似していくというプラスのエネルギーが更にプラスを生み出す環境が創り出せるように、声掛けをしております。そのために、何か問題があった時に大勢に向かって話すことより、少人数のメンバーで問題や課題の確認をし、しっかりと理解しあえる関係が築けるよう試みています。時代や社会のニーズに添った新しい軸を作っていく中で、その必要性や大切さを従業員達が理解し、サポートしてくれるような強い会社にしたいです。

先代から受け継いだ『繋がり』というギフト

今後の事業をどのようにして次世代に繋いでいきたいとお考えですか?また従業員に求めるものは何でしょうか?

 (稲岡当主)先代が亡くなり、右も左もわからないまま代表になり、コロナが広がる以前の6年間は、目の前にある日々を守ることに必死でした。コロナ禍になり時間が出来たことによって、尾張屋の味を作ってくれている生産者さん達や仕入れ先の方々に、改めてゆっくり向き合う時間が出来ました。そこに目を向ければ向けるほど一つ一つの繋がりの中に私が知らない、先代達が築いてきた信頼関係がありました。取材としてお話を聞き、撮影させていただき、目に見えない宝である『おかげ様』という絆の大切さを学ぶことができました。

生産者さん達を通してできた『おかげ様』という絆、また便利になっても丁寧に作ることや、手間をかける大切さを学びました。この二つのメッセージは、次世代にも繋いでいきたいと思っています。従業員に対しては、まずは日々の仕事を楽しんで、実力を上げ、尾張屋の歴史ある、つながりという目に見えない価値を一緒に守っていただきたいと思っています。長年受け継がれてきた信頼と、持続可能な意識を大切にし、蕎麦を通して世の中に貢献できるお店である尾張屋。それこそが、先祖から受け継いだ大きな『ギフト』だと感じております。

 

店舗情報:本家尾張屋 京都府京都市中京区車屋町通二条下ル仁王門突抜町322

 

【取材後記】550年以上に渡り京都の人々に愛されている老舗店ならではの課題や取り組みがあります。今回の対話で次の世代の人たちが幸せになる店作り”という長期的な視野を持って経営に臨む大切さを学ばせていただきました。嘘のない、本当に身体にも心にも良いものを届けたいという尾張屋さんの想いが一杯の蕎麦に、そして菓子に込められているのだと思います。

写真提供:本家尾張屋 / 取材、執筆:秋山直子

INBOUND PLUS 編集部

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