「日本の美を世界へ」をキーワードに、インバウンド向けの様々な文化体験プログラムの企画、手配、販売を行っているBOJ株式会社の野口貴裕代表取締役に同社の取組みや外国人リピーターを作る、地方に誘致する上で重要なポイントなど、お話を伺った。
ユニークな文化体験プログラムを造成するBOJ株式会社とは?
貴社のインバウンド事業について教えてください。
欧米豪の方をターゲットに、ユニークな文化体験プログラムを発信して、日本に来ていただいて体験してもらい、日本をもっと好きになってもらおうというコンセプトで、インバウンドメディア「BEAUTY OF JAPAN」を立ち上げました。現在、日本全国で300種類近くの文化体験プログラムを保有しています。既存のサプライヤーの方と組んだり、1から企画して手配していく中で、宿泊も、車の手配も、といろいろな要望が出てきたので、旅行業の登録をし、現在ではツアー事業をワンストップで提供しています。他の旅行会社にはないユニークな旅程を組んでいるところが弊社サービスに最大の特徴で、個人旅行者、団体旅行者、そして、MICEのIの部分(Incentive Travel)の中にも、文化体験プログラムをうまく組み込んで差別化を図っています。
また、欧米人目線のツアー商品の造成、販売から送客支援まで包括的にサポートするコンサルティングを手がけるようにもなりました。文化体験プログラム、それを活かしたツアー造成、そしてそれらの自社メディアでの販売、この3つの軸がお互いに相乗効果を生み、良い関係にあると思います。
自分の町の魅力をどう発見するか?JETプログラムの外国人の視点を活用
人気がある文化体験プログラムの傾向を教えて下さい。
プログラムの数で言うと、東京、京都のプログラムがダントツで多いですね。その後、大阪、広島、という順でしょうか。
朝稽古の見学や元力士による相撲デモンストレーションなど、相撲関連のプログラムは非常に人気があります。サイクリングツアーも人気です。東京近郊で2〜3時間、もしくは半日といったプログラムに人気が集まる傾向にあります。
また、欧米の方はJRパスを利用されることが多く、新幹線のルートに近いプログラムが人気ですので、今後、金沢方面のプログラムなどの充実を考えています。日帰りで能登半島や富山、福井へ行くツアーなど、福井県は眼鏡だったり手漉き和紙だったり、名産品も多いですし、面白いものができそうだと思っています。最近は、瀬戸内も知名度が上がってきていますので、力を入れたいと思っています。現状、小豆島や直島などの島のプログラムが多いのですが、高松や鳴門など他の瀬戸内地域も増やしたいと考えています。
文化体験プログラムはどのようにして作られるのでしょうか?
まず、面白いコンテンツがあるということが大前提です。そして次に、アクセスが良いかどうかというのが重要なポイントになります。やはり交通手段がないと、面白いコンテンツがあっても、残念ながらプログラムを作るのはなかなか難しいです。
作る流れとしては、基本的にお問合せをいただいて、前述のようなポイントがクリアされていれば、現地を視察します。文化体験プログラムを紹介する際に、東京からその場所へどうやって行けばよいか、また最寄り駅からバスはあるかなど、お客様にお伝えする必要があるので、必ず自分たちの足で現地を訪れます。
現地でヒアリングをする中で、灯台下暗しではありませんが、地元の方が気づいていない部分が、実は魅力的なコンテンツになることもありますし、欧米人とアジア人では、興味を持つ部分も違うので、どのように活かしていくとよいかなどを助言し作っていきます。場所に関係なくできるそば打ちや茶道体験などよりも、その土地ならではの稲穂が揺れる田んぼの風景のほうが、心惹かれたりするのです。
日本人では気づけない自分の町の魅力をどうやって発見するか、この方法は講演会などでもお話しているのですが、全国にいるJETプログラムの先生方にヒアリングすることをお勧めしています。外国人目線で、自分が住んでいる土地の魅力や、日本の文化やライフスタイルについて、日頃感じていることを教えてくれるので、とても参考になりますよ。
※The Japan Exchange and Teaching Programmeの略。語学指導等を行う外国青年招致事業で、外国語教育の充実と地域の国際交流の推進を図る事業。
文化体験プログラムの具体的な事例を聞かせて下さい。
福島県南会津郡の大内宿の茅葺き職人の話を聞くツアーは、当初は大内宿自体の説明を聞くツアーという話で進んでいたのですが、現地に行ってお話を伺っている中で一年に一度、茅葺き屋根の葺き替えがあるという話が出てきました。しかも茅葺き職人の方は近くにお住まいだということが判明しました。そこで、職人さんから直接お話を聞ければ面白いのではないかということで提案させていただいて、そのアイデアが実際に人気の文化体験プログラムになりました。
また最近作ったばかりなのですが、「和牛」のルーツをさぐるツアーというプログラムがあります。「和牛」という言葉は海外でも有名ですが、実はKOBEbeef(神戸牛)くらいしか知られておらず、もしかすると「和牛」という牛がいると思われてるかもしれないくらいです(笑。そこで「和牛」のルーツを辿っていくと「但馬牛」という牛にたどりつきますよ、という「和牛」のルーツを探るプログラムを作りました。但馬牛の牧場へ牛を見に行ったり、そこで贅沢にバーベキューをしたりサイクリングをしたり、牛を屋内で飼っていた古い家屋を見学したりします。
この文化体験プログラムは、但馬牛という和牛のルーツの牛がいるという話をたまたま聞いたことから生まれました。城崎温泉から1時間くらいの場所で、絶賛発売中です。
外国人リピーターをどう作るか、外国人リピーターをどう地方へ誘致するか?
これからのインバウンドに必要なことは何でしょうか?
これからのインバウンド市場においては、外国人リピーターをどう作るかが重要になってくると思っています。初めて日本に来ていただいた時に、どれだけ「wow!」と言ってもらえるか、ということが、最終的にリピート促進に繋がると思っています。
たまたま田舎で出会った日本人とジェスチャーでやりとりして仲良くなったとか、日本の美しい桜を見て感動したので次回は紅葉を見てみようとか、響くものは人それぞれ違うと思うのですが、観光名所をまわるだけではなくて、日本って本当にいいなとファンになってもらうことが大事です。
そしてこれから2020年にむけてインバウンドの数はさらに増えます。人気の東京や大阪、京都などのいわゆる「ゴールデンルート」に滞在中に、またそこから新幹線やバスでの移動中に、外国人がまだ見ぬ地方について知る機会も増えていくと思います。その時にいかに地方の魅力を伝えることができるか、そしていざ行こうとしてくれた時にどれだけ有益な情報提供ができるかということが、リピーターを地方に誘致する鍵になると考えます。
欧米豪の方たちは、地方に関心を持っている方が多いですし、リピーターの方はこれからどんどん地方に意識が拡がっていくと思います。日本滞在時に、次の興味を持ってもらうために何をしたら良いか?私たちサービスも、リピーター作りと地方への誘致のお手伝いができたらよいと思っています。
日本のインバウンド環境について感じていることはありますか?
日本人は外国人とのコミュニケーションを怖がっている人が多い印象です。日本人とコミュニケーションをとりたいと思っている外国人旅行者は多く、そもそも外国人旅行者も日本人が全員英語を話せるとは期待していないので、スマホの翻訳ツールを使うなどでもいいので、コミュニケーションがとれるとよいなと思います。
また決済面では、日本はまだ現金が主流ですが、特に欧米豪の方はクレジットカードでの支払いがメインです。食べ歩きができるような商店街のお店や、美術館や博物館のチケット売り場など、クレジットカードが使えない場所はまだまだ多いです。クレジットカードが使用出来ないために体験することができない、ということが少しでも改善されると嬉しいです。