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美味しさは、地元の原点から。未来を育む日本酒と食文化の架け橋 -株式会社セオリー-

 

生産者とお客様を繋ぐ架け橋に-株式会社セオリー-

スローフードで地域に根付いた豊かな酒文化、食文化、地域文化を守る

近年、日本でもスローフードの考え方が広がり、多くの地域で活動が行われています。スローフードとは地元の生産者によって丁寧に育てられた、土地に適した食材を使った食生活への関心を高める活動や食品自体を指します。
今年創業19年目を迎える株式会社セオリーは新潟県・富山県・石川県・福井県・長野県の北信越地方を中心に日本の酒文化や食文化、地域文化を守るために、その地域ならでは食材や調理法を取り入れ、生産者とお客様を繋ぐ架け橋となる飲食店経営をされています。

注目されるスローフードの多様な課題に対し、どのような想いで向き合われているのでしょうか?代表取締役社長 原誠志様に運営についてお話をうかがいました。

創業の原点・地元の食には地元の日本酒

―地域復興、そして日本食や日本酒文化の継承に力を注いだ運営をされていますが、創業の原点は何でしょうか?

(原社長)私は元々鉄道会社のサラリーマンでしたので、会社設立時にしっかりとした理念を持ち合わせていませんでした。会社を設立した2004年当時、日本は焼酎がブームでしたが、私は焼酎ではなく日本酒を通じてお客様に喜んでいただきたいと考えました。
少なくとも私の体験の中では、地元の食には地元の日本酒が一番合うと感じていたからです。全国の日本酒を扱うとなると数が膨大になりますので、狭く深くエリアを探っていく中で酒蔵が多い北信越に着目しました。このエリアだけでも酒蔵が250箇所以上もあるのです。米どころ、酒どころ、水どころとしても素晴らしい地域ですので創業に向けて大きく舵を切ることができました。

―これまでの地域復興、地域活性化において困難に思われたことはありますか?

(原社長)未経験で参入したので様々な障害はありましたがそれを困難と思うことはありませんでした。地域の日本酒を扱う事で、地元の蔵元さん達は非常に好意的で喜んで協力してくれました。なぜなら、世間が日本酒よりも焼酎に注目していた時代に、地域の日本酒を店に置いて、日本酒や地域食材の魅力を広めたいという話に賛同してくれたからです。「日本酒文化、日本食文化、日本地域文化を後世に伝える方舟になる」私の強い想いは企業理念にもなりました。本質的な推進力は私自身がやる気に満ちて無我夢中で、他人が困難や苦労だと思うことも、全く苦労だとは思わなかったというのが本音です。
もちろんビジネスですので人と人が関わる以上、心のぶつかり合いは常にありますし突発的なトラブルも起きます。その状況で言えば、今回のコロナが一番の困難になります

コロナというフィルターで見えたもの

―現在、飲食業界全体にある人手不足という課題に対して、どのようにお考えですか?何か対策はされていますか?

(原社長)コロナで飲食業界に規制が入った時点で、店舗の営業ができなくなりました。行政から助成金はありましたが、現実的に従業員の所得は下がります。収入面でも苦しくなる上に働く場所がなくなる事は、人として生き生きとした生活が送りづらくなります。多くの方が経済面でも精神面でも苦悩されたと痛感しています。当社にも生活の為に離職された方は多くいました。コロナが収束に向かっている現状だとしてもコロナ前の状況に再び戻ることは難しいと思います。
一方で当社にはコロナ禍でずっと自宅待機で収入が下がっても、残ってくれた従業員の方達がいます。その従業員達で作られた今の組織は強いと実感しています。当社の理念に共感し、会社が好きだと言ってくれる人達がコロナというフィルターを通して残ってくれた。この従業員達が会社の幹となり、今後は新たな花となってくれる新しい人達を受け入れていけば、コロナ以前よりも強い組織になると思っています。

―面接や採用時に留意していることはありますか?

(原社長)私は面接時にこういう人材じゃないと駄目ですよ、という取り決めはしていません。それは実際に一緒に働いてみないとわからないからです。店舗ビジネスですから、私がいいと思って採用しても所属する店に合うとは限りません。ワンチームで働けるか一定の期間働いてもらい、本人の意欲をしっかり確認して正式採用をしています。
当社の従業員は真面目でコツコツタイプが多いです。仕事ではコツコツとできることを増やす積み重ねが必要です。そうやって少しずつでも改善改革(PDCA)していけるような意識作りを大切にしています。

―入社後の教育面で工夫している制度や取り組みはありますか?

(原社長)当社の特徴的な制度としては、利き酒師資格の補助や資格手
当を毎月支給しています。これは従業員のサポートでもありますが、会社としては利き酒師がいる店としてブランディングができます。全店に約50種類以上の日本酒を常備していますので、お客様は利き酒師がいる店だとわかれば、料理に合う日本酒は何ですかと訊ねてこられます。利き酒師はお客様の質問に答えるために一生懸命勉強します。ここに相乗効果が生まれ、売上貢献にも大きく繋がっています。
その他には、私が毎月、各店舗に行ってミーティングをしています。社長自ら直接会って社員全員の顔を見て話しをすることが、コミュニケーションをとる一番の近道だと思って、欠かさず続けています

日本酒事業の支柱と一枚岩の組織

―企業組織においての強みは何でしょうか?

(原社長)日本酒事業の支柱があり、それに繋がるビジネスがあることです。
我々には地域を活性化させ、持続可能な日本酒文化や、日本食文化の魅力を多くの人に伝え、地域文化を理解していただけるよう活動してきた実績があります。その経験を活かし、今後もお客様に地域ならではの食材や日本酒を食していただき、喜びを感じていただけるよう取り組んでまいります。
もう一つ、コロナ禍で残ってくれた従業員達との一枚岩になった組織であることも当社の大きな強みです。
今の従業員達には出来るだけ長く働いて欲しいと考えていますがそれは人材不足解消のためではなく、一定の場所で深く従事することで、自ら得られる技術や知識が計り知れないものになるからです。現在のステージでスキルを身に付け、結果を出して胸を張って次のステージへ進んでいただきたいと願っています。

食品ロス対策、価値ある資源を無駄にしない取り組み

―地域の環境問題、安心安全な食の供給に注力されていますが、今後コロナが落ち着き、また外国観光客が増えると言われています。インバウンド対策は何かされていますか?

(原社長)現状では多国語でのメニュー表記以外に具体的な取り組みは、あまりしておりません。
当社の旗鑑店である銀座店(東京)は、和食や日本酒を提供する他、囲炉裏で焼いて召し上がっていただくサービスを提供しています。ビジネスで海外の方を接待する場として多くご利用いただき、海外の方にも喜んでいただいていますので、今後は更に当店の『方舟(はこぶね)』を外国人の方に周知いただけるようインバウンド対応は必要だと感じています。
SDGs(持続可能な開発目標)に対しては日頃から従業員も含め高い意識を持っています。画期的なアイデアは生まれませんが、明日からできる堅実な取り組みとして、食品ロスを出さない工夫をしています。食材は捨てる部分を出来るだけなくしてリユースします。長く保存できる日本酒も一度栓を抜くと酸化が進み品質が下がりますので、お店で回転の少ない日本酒については、鮮度が落ちないうちに飲み放題のイベントなどで安く提供し、無駄にしないよう常に心掛けています。

高齢化、過疎化、後継者問題 地域と都心部の架け橋に

―『つなぐ』という観点で、今後の事業をどのようにして未来、次世代に繋いでいきたいとお考えですか?

(原社長)私は地域の生産者さんの所へ通う回数が多いのですが、実際に目の前にある問題として高齢化、過疎化、人口減少による後継者問題は深刻だと感じています。私達は地方と都会との架け橋になりたいと思っています。地方にはその土地ならではの、古き良き文化があります。地方の中だけでは価値だと伝わらないものが、都会では大きな価値だと認識されますし、都会で職が見つからない若い人材が地方に行くと大歓迎されるという、お互いにとって非常に大きなメリットを生み出すこともあります。
価値と価値との等価交換を繋ぐ立場でありたい、地域活性に役立ちたい、このような思いを次世代にも共感してもらいたいですし、大きな課題の解決には至らずとも存在意義があると思っています。

店舗情報(代表店):銀座方舟 大吟醸いろり店 東京都中央区銀座8-8-8 GINZA888 ビル7F

 

【取材後記】
スローフードは生活基盤である食の大切さを知り、日本食文化の継承を目的としています。今回のインタビューで地域で育つ素材の豊かさを守り、皆が一枚岩となって地域活性に取り組む姿勢を、次世代へ繋いでいきたいという企業の想いをお聞かせいただきました。私達もスローフードの理念に基づき、明日からでも何かできることがあるかもしれません。

 

写真提供:株式会社セオリー /  取材、執筆:秋山直子

INBOUND PLUS 編集部

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