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【インバウンド×鉄道】
関⻄の観光を⽀える鉄道会社の取り組み


 インバウンド需要が⾼まっている、といえどもその対応は業界や企業によって⼤きく異なります。関⻄の⼤⼿鉄道会社として関⻄地域の観光を⽀え、多⾔語対応にも積極的に取り組む近畿⽇本鉄道が抱える課題と、解決するための努⼒とはどういったものでしょうか、多⽅⾯から取材しました。

鉄道業界にとってのインバウンド対応

インバウンド旅⾏者が増えていることにより事業に顕著な変化はありますか

 ⽬に⾒えて増えているので、サービスや案内におけるインバウンド旅⾏者に向けた対応が急速に進んでいます。国からの指導もあり、ここ4、5年で例えば⾞内アナウンスにおける多⾔語対応が⼤きく進みました。そのほかにも、タブレット端末を利⽤した IoT の推進や駅係員、⾞掌らの英語研修もおこなうようになり、急激な変化に対応すべく努⼒しています。

増えるインバウンド旅⾏者のなかで、とくに観光客が増えた国はどこですか

 やはり中国の⽅が圧倒的に多いです。インバウンド旅⾏者の多くは鉄道であれば難波から奈良にかけての区間を利⽤される⽅が多く、これは⽞関⼝の関空から宿泊先難波への導線が機能しているからです。そこから観光地奈良に向けての路線に利⽤者が集中しています。ほとんどその路線に乗っていると⾔っても良いくらいです。
 ⼀⽅で近鉄では、特に三重⽅⾯のPRに⼒を⼊れています。近鉄としては、難波から奈良の区間だけでなく、三重⽅⾯に⾜を伸ばしてもらえるように、様々なキャンペーンを打って三重の魅⼒を発信しています。

具体的にはどのようなキャンペーンがあるのでしょうか

 海外の旅⾏博に出展した際に、企画乗⾞券である KINTETSU RAIL PASS(近鉄レールパス)のPRを重視しています。インバウンド旅⾏者(短期滞在の外国⼈のみ)を対象とした乗⾞券なのですが、PR の仕⽅は、なかなか難しい⾯もあります。この企画乗⾞券を PR するためには、旅⾏はまず⾏きたいところがあり、そこに⾏くためには鉄道という⼿段があります、そしてそのためにインバウンド旅⾏者向けのお得な乗⾞券がありますよ、という段階を踏んだ営業をしなければならないからです。ですから、営業活動の8割ほどは沿線の観光地の案内をしているのです。そのうえで⾃社の路線をPRし、そして企画乗⾞券の営業をするという⼿順でおこなっています。

PRとその効果の⾒えにくさ

そのほかに特に意識的におこなっている営業活動は何かありますか

 最近ではSNSがメディアとして影響⼒が強いので、例えばインフルエンサーを起⽤してSNSでのPR活動に⼒を⼊れています。海外のインフルエンサーを招いて沿線を案内し、その様⼦や感想をブログやSNSに投稿してもらうことや、動画の配信をしてもらうなどのPRを頻繁におこなっています。そのほかにも公式の Facebook や Instagram も更新を続けています。Facebookは英語、繁体字、ハングル、タイ語で発信しているので、旅⾏博でもSNSアカウントのPRもしながら、ファンを増やす活動をしています。旅⾏博において関⻄⽅⾯のブースに来られる⽅というのは、もともと興味を持っている⽅が多いので、そうした⽅に向けた発信を強化しています。

インバウンド旅⾏者が増えたことによって困っていることはありますか

 インバウンド旅⾏者が多い駅にはコンシェルジュを配置したり、英語研修の効果もあって、⼤きく困っていることはありません。しかし異例時において、例えばダイヤが乱れた際に臨機応変な案内を即座にするということが課題です。平時における⼀般的な案内は録⾳などで対応できますが、その場で瞬時に対応することが求められると、まだ⼗分にできているとは⾔えませんので、課題解決に向けて研究しています。
それから、我々のPR活動によってどれだけの⽅が沿線に来て下さったのかといったことがなかなか分かりづらいという課題もあります。このコストに対する効果を分かりづらくしている理由は、例えば近鉄レールパスをご利⽤いただければある程度の効果はわかりますが、正規料⾦でご乗⾞いただいている⽅も⾮常に多いので、そうした⽅のどれ程が私たちのPR活動によって来てくださったのかということを分析することがとても難しいのです。さらに近鉄レールパスを海外でご購⼊いただくと、バウチャーが発⾏されそれを駅の窓⼝で引き換えていただくという⽅法でご利⽤いただくので、引き換え時の駅係員による感覚でしかどこの国からの観光客なのかといったことも分かりません。多様なデータを元に客数の推計から分析することはもちろんやっていますが、どうしてもスピードや正確性に課題を残しています。何か良い解決法はないかと思案しています。

困難だからこそ先⼿を打つこと

国によって観光客のニーズが違うことにはどう対応していますか

 旅⾏博に実際に出向くと、⼀般的に知られていることとは違うニーズを掴むことが多いです。実際に⾏くのと⾏かないのとでは⼤きく違うので、実際に出向き対話することは⼤事だと思います。国によって質問の傾向も違いますし、近鉄としてインバウンド対策をどうするのかと聞かれれば、国によって対策が違いますというのが正直なところです。こちら側が奈良や三重を売り出したいと思っていても、私達が⾏かせたい場所だけをPRしても効果が薄いので、現地の要望を理解したうえで対応しなければなりません。旅⾏は⻑期スパンで考える必要がある体験だからこそ、潜在的な観光客の特質を理解して先⼿先⼿で対応することの必要性を感じています。

最後にインバウンドプラスの読者に向けてPRしたいことはありますか

 近鉄沿線にはまだまだインバウンド旅⾏者に知られていない場所がたくさんありますが、近鉄だけの⼒でこの魅⼒ある沿線の観光地をPRすることは難しいと思います。しかし、近鉄沿線の⾃治体様や関⻄の企業さまと⼀緒に協⼒して、近鉄沿線の観光地をしっかりとPRし、インバウンドの旅⾏者に近鉄沿線の魅⼒を感じてもらえるように努⼒していきたいと思います。

編集後期
なごやかな雰囲気の中で近畿⽇本鉄道の課題や当メディア読者に対する明確なメッセージをお伺いできました。紙幅の都合で書ききれなかったことも含めて、鉄道という乗り物を扱って観光客をもてなす難しさや、新しい観光地を売り込む難しさ、そして何より強みをあらためて感じました。

取材・写真・編集:新國光太郎

近畿日本鉄道株式会社 猪狩一典氏 /松原拓也氏

INBOUND PLUS 編集部

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