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福岡市のインバウンド向け伝統工芸品の開発秘話。
外国人ラジオDJというこれまでになかった「外国人視点」。

 福岡市が昨年から、外国人観光客向けに取り組んでいる伝統工芸品の商品開発プロジェクト「インバウンド向け伝統工芸品開発事業」。外国人観光客のニーズに対応した「博多織」と「博多人形」の新しい商品を開発する当事業について、福岡市様と総括コーディネーターを務めたラブエフエム国際放送株式会社の太和田様に開発秘話を伺ってきました。

東アジアにおける「博多織」「博多人形」の認知度は高まってきている。

「インバウンド向け伝統工芸品」開発事業が立ち上がったきっかけは?

小山: 博多織、博多人形の生産量や、従事されている方の人数が、昭和50年代をピークとして落ちてきています。その課題をどう解決するかを考えたときに、現在、福岡は訪日外国人が増え続けており、平成27年度の福岡空港・博多港における外国人入国者数が、前年比 73.1%(約 88 万人)増の 208 万人となり,4年連続で過去最高を更新しました。(当事業は平成29年度事業であり、平成27年度の数字を参考にしている)そのような背景があり、インバウンド消費を伝統工芸の方にも取り込みたいという目的で始まった事業になります。

 「博多織」「博多人形」の東アジアにおける認知度ですが、平成28年から上海髙島屋において「博多織」「博多人形」の取扱いが開始され、現地での認知も広がってきています。また、当事業の立ち上げ当初に行った福岡空港での外国人観光客への認知度アンケート調査においても、香港、台湾、中国の25%以上の方が「博多織」を認知、台湾、中国の方は25%以上の方が「博多人形」を認知しているという回答結果が出ていることから、東アジアにおける認知度は高まってきていると言えると思います。

商品企画に、外国人ラジオDJの視点を活用したことが、今回のプロジェクトの最大の特徴

今回のプロジェクトの特徴は「DJ視点」などの活用にあると思います。その点を詳しくお聞かせください。

太和田: ラブエフエムは日頃より、10ヶ国語以上の言語を話せるDJが在籍しています。多くのDJが日本に20年以上滞在しており、日本のことも、福岡のことも非常に理解しています。今回は、そのDJ視点を商品アイデアを出すフェーズで活用いたしました。ニーズ調査という点では、その他には留学生に対するアンケート調査や、先ほど小山様からお話のあった空港における外国人観光客へのアンケート調査を弊社で実施し、加えて、上海髙島屋バイヤーへの聞き取り調査も含めて、外国人観光客のニーズ収集を行いました。

 実際に外国人DJにプロジェクトのMTGに参加してもらい、どのような商品を開発するか議論していく中で、彼らの視点というのは非常に参考になりました。日本にいながらも、母国での流行にアンテナを張っている彼等からは、日本と母国の文化、日本と母国のトレンドを組み合わせた有益なアイデアが幾つも出てきました。

 博多織の生地を使って、誰でもカンタンにオリジナルアクセサリーを作ることができる『博多織 DIY KIT』は、韓国人DJから、「昨今日本でも流行しているDIYは、実は韓国でも非常にブームになっている。ワークショップなどを開催して体験として提供することもできるし、日本人もターゲットにできるので面白いのではないだろうか?」という意見をもらったのが、アイデアのきっかけになります。

『博多織 DIY KIT』
自分で作る初めての博多織。博多織の生地を使って、誰でもカンタンにオリジナルアクセサリーを作ることができる遊び心満載のキットです。様々な柄の中から好きな布をえらび、自分の手で作ることで、777周年を迎えた博多織の伝統をより身近に感じて下さい。
株式会社鴛海織物工場(HAKATA JAPAN):http://www.hakatajapan.jp/
蝶ネクタイ(計10色) 各2,500円
ピアス、イヤリング(共に10色) 各1,500円
ブレスレット(計10色) 各1,300円 
※金額は全て税別

太和田: 博多人形『福かぶり猫』は、最初は別のアイデアで商品設計が進んでいたのですが、「日本らしい」「世界中の人に興味を持ってもらえる」という点から考えたときに、猫は万国共通で愛されている動物であるということ、また日本らしいという点でも「招き猫=日本」というイメージは世界中で定着しているという意見が、どのDJからも出ました。その結果、招き猫をモチーフに「縁起のいい猫」という商品コンセプトが出来上がりました。
 
 中国では、福をひっくり返して「倒福(だおふー)」と言って、縁起が良いということで玄関等に紙を貼っていたりする文化が古くからあるので、その要素を取り入れてもいます。あと、これは日本語にはなるのですが、「袋をかぶる(=福をかぶる)」に「ふくおかぶる」を掛け合わせた福岡ならでは?のダジャレも取り入れています(笑

●博多人形『福かぶり猫』
福を招く福岡の招き猫。猫は箱や袋が大好き。すぐに飛びつき潜り込みます。そんな愛嬌たっぷりな猫の可愛さを博多人形に再現。「袋をかぶる(=福をかぶる)」に「ふくおかぶる」を掛け合わせた、福岡ならではの縁起のいい招き猫です。
博多人形師 小副川 太郎
博多人形商工業協同組合:http://www.hakataningyo.or.jp/
シロ、トラ、三毛、シャム(計4色) 各3,500円 ※税別

太和田: 博多織『つつ美』は、ニーズ調査の結果で、「化粧品を持ち歩く」という回答が多かったので、化粧ポーチや小物入れとして、発想されたものです。韓国で、韓国の伝統衣装・チマチョゴリを着て宮殿を歩くのが流行っているという話もあり、チマチョゴリにも合うし、日本でもレンタル着物などを着て、このポーチを持ち歩いてもらうということも想定して制作しました。

博多織『つつ美』
ふろしきのように結べる、包めるポーチ。和情緒あふれる凛とした“ふろしき感”はそのままに、もっと気軽に、日常に使いやすくアレンジした博多織のポーチです。着物はもちろん、洋服にもぴったり。化粧ポーチや小物入れ、お出かけバッグとしても重宝します。
株式会社サヌイ織物:http://sanui-orimono.co.jp/
上:大 献上柄(計2色) 各7,000円
下:小 サクラ・市松模様(計5色) 各4,000円
※金額は全て税別

「これまでに試してきたことと違う結果が生まれるかもしれない」と言ってもらえるまでの道のり

このプロジェクトで一番苦労されたことは?

太和田:外国人ラジオDJにとって、伝統工芸品の商品開発という仕事は初めての未知の仕事です。プロジェクトが始まった頃は、「博多織」「博多人形」のメーカー・職人さんとの打ち合わせにおいて、本質を理解できていない発言などもあったかと思います。その中で、彼等も伝統工芸品への理解を上げるために努力をしてくれました。デザイナーやマーケッターといった方々だけであれば、プロ集団なので、相手の想いや本質を捉え、それを形にすることができるので、このような苦労も少なかったとは思います。それでも、「外国人ラジオDJ」という視点が当事業の目的を達成するためには必要だと考え、取り入れました。

 「博多織」「博多人形」のメーカー・職人さんは、日々、伝統工芸品の今後について考えていらっしゃいます。世の中にある施策などは、すでに検討されていたり、実施されていたりしました。なので、私たちは、その「伝統工芸のプロ」である方たちに、「なぜ、DJ視点を取り入れるのか?」「外国人へのマーケティング調査をどう活かすのか?」というロジックをきちんと説明することを心がけました。「そういう理由だったら、これまでに試してきたことと違う結果が生まれるかもしれないから、チャレンジしてみたい」と言って納得してもらった上で、プロジェクトを開始できたことで、このレベルのアウトプットに繋がったと思っています。

博多織は、今年は777周年という節目の記念すべき年。11月には福岡で「伝統的工芸品月間国民会議 全国大会」開催

今後の展開は?

小山:現在は、はかた伝統工芸館、福岡市博物館、WeBase HAKATA – WeBase Hostelなどで販売をしていまして、商品それぞれが販売先を拡大している段階ではあります。今年度も「博多織」「博多人形」と組んで、インバウンド向けの新しい工芸品の開発を行う予定です。

 また、福岡は、今年11月2日から4日まで、マリンメッセで「KOUGEI-EXPO 第35回 伝統的工芸品月間国民会議 全国大会 in 福岡」が行われます。10万人くらいが集まるイベントです。博多織は、今年は777周年という節目の記念すべき年でもあるので、力を入れていきたいですね。

左から、福岡市 安達様、小山様 ラブエフエム国際放送株式会社 太和田様

●はかた伝統工芸館
開館時間:10:00~18:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:水曜日 入館料:無料
福岡市博多区上川端町6-1(櫛田神社横) TEL:092-409-5450

●福岡市博物館
営業時間:9:30~17:30 ※入館は閉館の30分前まで
福岡市早良区百道浜3丁目1-1 TEL:092-845-5011

●We Base HAKATA
福岡市博多区店屋町5-9 TEL:092-292-2322

●KOUGEI-EXPO 第35回 伝統的工芸品月間国民会議 全国大会 in 福岡
日時:11/2(金)11:00~18:00
3(祝・土)10:00~18:00
4(日)10:00~16:00
開催場所:マリンメッセ福岡(メイン会場) ほか ※入場無料
http://kougei-expo.com/

インバウンドプラス編集部より

  ここ数年、留学生を活用した「外国人視点」の取り入れが増えてきている。「自分の街に来てくれる人は何に興味を持ってくれるのか?」「外国人から見た時に何が魅力として映るのか?」という外国人ニーズを知るために、母国と日本の2つの視点を持つ留学生の視点は重宝され始めている。今回の福岡市の取り組みで興味を持ったのは、「外国人ラジオDJ」という他にはない「外国人視点」だった。20年以上、日本に住み、ビジネスも経験している「外国人ラジオDJ」は、ニーズ調査だけではなく、売れる商品を作るための企画面で、貴重なアイデアを出してくれることが多かったそうである。このように生まれた商品のこれからの動向が気になる。

INBOUND PLUS 編集部

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