美味しい笑顔が集う場所 ― スター食堂株式会社 ―
多業態でお客様のニーズに応え、喜びと幸せを届け続けたい
京都市内に飲食店を15店舗展開する他、テイクアウト専門店やオンラインショップ、ケータリング、ブライダル業など多岐にわたり事業を展開しているスター食堂株式会社。創業1925年から約100年、多くの人々に洋食を広めてきました。
和食中心だった環境でどのようにして洋食店を始められたのでしょうか?
企業の想いや飲食店が抱える課題への取り組みについて営業統括部長兼人事部長、瀧上様にお話をうかがいました。
原点回帰 スター食堂へ込めた想い
-和食中心だった外食市場に洋食を取り入れた背景を教えてください。
(瀧上部長)大正時代、創業者西村寅太郎(氏)が米国でレストランチェーンの経営を学び京都に持ち帰ったのが始まりです。日本社会は「文明開化」を掲げ欧米文化を積極的に取り入れていた時代です。
当時日本人は欧米人に比べ体格が小さく、「日本人も大きく強くなってほしい」と思ったそうです。そのためには欧米人と同様に肉を食べる食生活を始めるべきだと考え、米国で学んだ経営の知識をもとに本格的な西洋料理店を始めることになったと聞いております。長年紡いできた洋食がお客様に受け入れられ喜んでいただけることを嬉しく思います。
-覚えやすい社名ですが由来はなんでしょうか?
(瀧上部長)わかりやすさを重視したことは確かです。1925年の創業当時「食堂」という言葉は新しく洗練された言葉として周知されていました。京都で初めて女性のサービスフロア係を採用したり当時まだ珍しい電気冷蔵庫を導入するなど、当社は先進的な取り組みを多数取り入れておりました。夜空を見上げる星の如く多くの店を出していきたいという願いと、洒落た“食堂”という言葉を合わせ名付けられた社名です。
実は30年程前に“食堂”を取った社名に変更したことがありました。しかし誰が見ても何の会社かわかる方がいいという意見やコロナ禍で大きく構造改革をしたタイミングで、改めて原点をしっかりと見つめていこうと2020年に「スター食堂」に社名を戻しました。
-これまでの運営で困難に思われたことはありますか?
(瀧上部長)約100年の歴史の中で様々な困難がありました。戦時中は肉や米の調達にも苦労し、お客様に料理を提供することが難しかったそうです。
社名であるスターの文字が敵国の言葉という理由で使用ができず、和名に変更せざるを得なかったことや関西大震災、リーマンショックなど時代とともに苦境はございました。それでも周りの人達と支え合い団結して何とか乗り越えてまいりました。
今回のコロナのように店が開けられない状況や人と会うことを自粛する期間が続いたことは、今までに経験がなくレベルが違うと感じました。先行きが見えず不安を抱えたコロナ禍が一番の困難ではないかと個人的には思っています。
時代と共に柔軟な変化
-飲食業界全体で人手不足という課題がありますがどのようにお考えですか?
何か対策はされていますか?
(瀧上部長)私達は会社を永続的に繁栄させるために、「変わらぬために、日々変えていく」意識で変化していきたいと思っています。これは現当主の言葉ですが、企業は時代に柔軟な対応をしながら、土台にある“お客様への想い”を変わることなく抱き続けるという意味です。
2019年の働き方改革関連法の実施をうけ、残業時間の見直しや一人一人が働き方を選べるよう働く環境を整えてまいりました。
働き方改革関連法は社会の決めたルールですが、料理や職人の世界では時間に対する価値観が各々違います。時間のバランスを取ることが難しい業態ではありますが、ルールを守る会社が人材不足の中でも求職者に選ばれていくと考えています。そのための見直しは積極的に取り組んでおりますので成果も出せていると捉えています。
当社はライフプラン制度を取り入れています。自分の働き方に沿って働く時間を選べる制度です。現在はスタッフのニーズが多様化しており目一杯働きたい人もいれば、子育てに専念したい人もいます。今までのように皆が一律の勤務体制をとることは非常に難しいことです。今後も柔軟に変化をさせながら働きやすい環境を整えていきたいと考えています。
-面接や採用時に留意していることはありますか?
(瀧上部長)我々は人柄を重んじています。お客様をおもてなしするうえで必要な、笑顔で挨拶することや元気良く返事ができること、これらを兼ね備えていることが大前提です。それに加えて素直で一生懸命、食べることが好き、人と接することが好きだと言ってくれる方達と一緒に働きたいと考えています。優れた経歴や豊富な知識よりも大事なことだと考えております。
-入社後の教育面で工夫している取り組みやコミュニケーションの取り方はありますか?
(瀧上部長)新入社員に対しては動画を使い接客の心構えやお客様の期待に応える仕事について学んでいただいています。その他ではリーダー研修やハラスメント研修など皆が目的を共有し、現場で活かせるものを多数実施しております。とはいえ店舗におけるOJTに頼ってしまう部分があるのが実情です。店という限られた空間に居続けていると少なからず息詰りを感じますので、他店の応援や配置転換などで適度に環境を変えながらアットホームな仲間意識を持っていただけるよう努めています。
当社は仕事同様に遊ぶことも真剣に楽しんでいます。レクリエーションも業務の一環としています。勤務時間内にバーベキューなど皆が一緒に楽しめるイベントを開催して定期的に交流する場を設けています。
スタッフ達は心が優しい人ばかりです。仕事上では気持ちのぶつかり合いを重ねても、お互いを尊重する良好な人間関係が築けていることは私も嬉しく思います。
インバウンド集客への工夫、気負わず続ける地域活動
-今後コロナが落ち着き、また外国人観光客が増えると言われています。インバウンド対策や環境に配慮した取り組みは何かされていますか?
(瀧上部長)インバウンド対策はこれまでに沢山取り入れてきました。特徴的なものは外国人観光客が安心して楽しんでいただくことを目的としたQRコード付きのショップカードを店頭に並べたことです。お客様がその場で当店のリサーチし、レビューサイトで当店の評価を事前に見ていただくことは海外のお客様の安心につながるので非常に大切です。
コロナ前は海外のお客様向けに特別なメニューを提供していた時期もありましたが、実際は日本人客と同じものを希望される方も多く現在は全てのお客様に同じメニューを楽しんでいただいております。
海外のお客様にはスタッフもしっかりと対応してくれていますが、言葉の問題もあり話せるスタッフに頼ってしまう時もあります。スタッフが喋れないからと身構えてしまい戸惑いが伝われば、お客様は残念に思われます。スタッフには、喋れなくても自分の持ち合わせる言葉で海外のお客様と会話を楽しんでいただきたいです。そのチャレンジが自身の成長にもつながると思っています。
誰であっても笑顔で元気におもてなしをすることは基本であり、各店舗で徹底しております。
飲食業界はSDGsに関連が強い業種だと思っています。以前より続けている食品ロス対策以外にも調理専門学校への講師派遣や食育活動 、子ども食堂への食事提供など様々な地域活動を実践いたしました。数年前にはわからなかったSDGsの言葉や活動意義も、今ではスタッフ達もしっかりと理解し意識づけができるようになりました。今後も気負うことなく続けていきたいと考えております。
お客様の多様なニーズに応えられる企業
-企業の強みは何でしょうか?
(瀧上部長)洋食を軸に多くの業態を持ってお客様のニーズに応えていることだと思います。今後も可能な限り手作りにこだわり、コストパフォーマンスにも務めていきたい考えです。真心込めた料理やおもてなしに触れてもらうことで、心の豊かさも一緒にお客様へお届けできていると思っています。
もう一つの大切に思う強みは京都で約100年、多くのお客様に洋食を届けてきた私達に多くの思い出があることです。当店で初めてナイフとフォークを使ったと嬉しそうに話して下さるお客様や、昔家族に連れられてきたお子様が成長されご夫婦でご来店いただける。そのような場面に立ち会えることは非常に嬉しいもので100年分の思い出は何にも代え難い宝物です。地域の方々に愛され続けてきたことや、人とのつながりを大切にする企業であると誇りに思っています。
創業100年目は通過点 スター食堂として幸せを届けたい
-『つなぐ』という観点で今後の事業をどのようにして次世代に繋いでいきたいとお考えですか?
(瀧上部長)コロナ禍にチャレンジした物販業態でより多くのお客様にスター食堂の洋食を届けられるようになりました。何よりスター食堂という名前で出店できたことは大きいと思っています。
現在の実店舗に社名が入ったレストランはございません。今後はレストランとしてもう一度スター食堂という名を掲げて、我々の原点に向き合いたいと考えております。レストランにご来店いただくお客様には笑顔と幸福を、ご自宅で楽しまれるお客様には食の豊かさをお届けしていくことが未来につながることだと思います。
インバウンドに対する意識や取り組みは万全にしている傍らで、地元のお客様の大切さも痛感しています。コロナ禍を振り返り感じたことは見通しがつかない状況下のなか、地元である京都のお客様に多く支えていただいたことです。地域の皆様へ感謝の気持ちを還元し、これからも愛されるような店づくりを心掛けていきます。
当社は2025年に創業100周年を迎えます。今後の目標として年商20億円を到達させたいと思っています。我々の理念や運営方針に共感してくれるスタッフが一人でも増え、より多くの方に仲間に加わっていただきたいと考えています。100年目を通過点と考え、どのようにして200年目へ向かうかに焦点を置き、皆で団結して邁進したいと思っています。
店舗情報:洋食惣菜 スター食堂 御幸町錦上ル(代表店舗)京都市中京区御幸町通錦小路上る船屋町394
【取材後記】
アフターコロナと言われる今、飲食店の人手不足が深刻化し企業側も会社を存続させるために様々な取り組みをしています。今回のインタビューで個々の働き方に沿った環境作りや、コロナ禍に物販事業を確立させ今後も様々な業態を持ってお客様のニーズに応えていく想いをお聞かせいただきました。原点に立ち返り、洋食を通して楽しい時間と心の豊かさを多くの方へ届けたいという本質が伝わり心に響きました。
写真提供:スター食堂株式会社 / 取材、執筆:秋山直子