キーマンインタビュー
【インバウンド×通訳】「言葉が通じない」を無くす、言葉のプロフェッショナル
選び抜かれた通訳者で、インバウンド最大の課題に挑戦するテレコメディア
株式会社テレコメディア 幸 健太様
訪日外国人が感じる日本滞在中の不安。そうした課題の中で、最も頻繁に挙げられるものに「言語の壁」があります。選ばれ、鍛え抜かれたオペレーターと共に「言語の壁」に挑戦する株式会社テレコメディアの幸 健太様にお話を伺いました。
言葉の壁を無くす、プロフェッショナル
事業概要について教えてください
テレコメディアは、コールセンターのアウトソーシング業からスタートしました。通販、メーカーの商品に関するお問い合わせや注文に対して、電話にて代行するという日本語のコールセンターのアウトソーシングをしており、事業の基盤である日本語のコールセンターには約1100名のオペレーターがいます。コールセンターのノウハウを活かして、2010年からバイリンガルのオペレーターを雇用、電話回線を通じて通訳をするという多言語に対応したコールセンターを設置しました。
設立当時はテレビ電話などなく、通訳専用の電話番号を通訳を必要とされるご契約企業のスタッフ様にお渡しし、通訳を必要とされるショップの方が、その電話番号に携帯電話や固定電話で電話していただき、目の前の外国人の方と、依頼を受けた通訳オペレーターで通訳をしていくというシンプルなところからスタートしています。
後に当社でもテレビ電話のアプリを開発し、テレビ電話による通訳サービスの提供を開始しました。また、最近増えているのはクライアントが自社のコールセンターを運営されている場合、外国人の方から入電があった時に、当社の通訳コールセンターにも繋いでいただき、三者間三地点で電話をつないで通訳を行う方式もあります。
選び抜かれたスタッフと、クオリティ担保の秘訣に迫る
採用で最も力を入れていることは何ですか
採用で最も力を入れていることは、通訳クオリティを担保するためのスクリーニングです。基本の採用プロセスは、書類審査では日本語検定などの言語に関する資格を確認し、面接にて人柄を確認するというスタイルをとっています。
さらにその場で通訳のテストをさせて頂き、そこで合格した方のみ試用期間に移っていただきます。通訳テストでは実際の状況を模して、管理者が英語を話す外国人役、もう一人のスタッフで日本語の通訳していただくお客様に扮し、業務と同じ通訳をその場でしていただきます。緊張によって実力を発揮できない部分があることを加味した上で判断させて頂きますが、約8割は不合格になります。
その後一か月ほどの試用期間を設け、勤務態度含めて選考を続けます。最終的に、通訳テスト合格者から半分程度が採用に至る、というのが全体の選考プロセスです。試用期間中は各業務の座学を行い、私たちのコールセンターの理念などお伝えし、実際に通訳を行っていただきます。その際、スーパーバイザーや管理者がモニタリングをして、その場でフィードバックを繰り返していき、通訳のクオリティを担保、向上させています。
採用の判断軸は、語学力ですか
一番重視しているのは、コミュニケーション能力です。通訳時に自分の主観を入れていないか、情報の抜け漏れがないかをチェックしています。なぜ語学力よりもコミュニケーション能力を重視するかというと、きちんとお客様の言うことを聞き取り、「丁寧に正確に伝える」ことが通訳のクオリティに直結するからです。さらに、自身が通訳という第三者的ポジションを精神的に維持できるかということも確認しています。 例えば、外国人のお客様が非常に怒っていらっしゃるという時でも、どちらに寄ってもいけません。こうした中立な立場を維持できるかを見ています。
今、必要とされる通訳の条件
競合他社との違いや、最も力を入れている点に関してお聞かせください
一番力を入れている分野は、専門的な業界や複雑なコミュニケーションが求められる通訳です。当社のお取引先には、銀行やカード、保険会社を始めとした金融機関、航空会社や鉄道会社などの公共交通機関、医療機関があります。保険会社の示談交渉、銀行およびカード会社における金融サービスに関する問合せ、航空会社における空路の変更、医療機関における救急対応などの通訳においては業界特有の知識や対応を求められます。
一方で、ショッピングセンターなどの通訳に関しては自動翻訳などの通訳サービスが普及してきているため、リアルタイムの通訳は取って代わられてきている印象があります。クオリティの部分や、ある程度の専門知識が必要など、レベルの高い通訳が求められるシーンでは、まだまだ人を介しての通訳が必要です。
通訳は、どこまで人が介入すべきなのか
現在、インバウンド事業に関して課題やお困りのことはございますか
課題と言えるかどうかは分かりませんが、人が必要な通訳と、機械で出来る通訳の境目が明確になってきていると感じています。2010年に、私達がこのサービスに参入した時は、主にショッピングセンターにおける商品紹介に関する接客の通訳を提供していました。今では、商品紹介など簡単な通訳は機械で出来てしまうので、人間を介する必要がなくなってきています。同じショッピングセンターの接客でも、当社に求められているのは、お客様とコンフリクトしているような状況で通訳のご依頼が増えています。返品、交換やクライアントのルールから外れたお客様からの強い要望など困難なシーンで通訳を行うことが要求されています。そのため通訳オペレーターに対し精神的な負担が増えていることから各オペレーターのケアがとても重要になっています。例えば、医療通訳であれば、余命宣告のシーンがあります。そういった場合、治療方法の説明をどうするのかという課題があります。さらに、目の前で運ばれていた患者さんが亡くなってしまうというシーンも、実際の医療通訳では起こり得ます。このようなショッキングな状況では、オペレーターにどうしても精神的な負担がかかりますし、オペレーターによってはそのような状況に抵抗がある方もいらっしゃるので、各オペレーターとの取り決めや精神的なケアをきちんとやっていくことが重要であると考えています。
今後の展望に関して教えてください
日本における通訳のコールセンターサービスが各業界に認知されて10年程度と始まったばかりの市場です。一方では機械翻訳できる領域が広がりつつありますが、人でしか提供できない分野やシーンがまだ多くあります。当社は人が行うことによるクオリティを追求し、各分野へサービス提供を拡大していきます。
<編集後記>
訪日外国人だけでなく、日本人もまた外国を訪れると、言語が通じないという経験をしたことがあると思います。さらにトラブルに巻き込まれた、病院に行かなければならない等のアクシデントにおける「言語の壁」は非常に不安なものです。そうした時に、「問題解決に導く」オペレーターは心強く、これからのインバウンド対策で更に力を入れるべき分野であると思いました。(INBOUNDPLUS編集部 長谷川拳太郎)
取材・写真:大島千佳
編集:長谷川拳太郎