人手不足が深刻化する日本の外食産業において、従業員の定着とモチベーション向上は喫緊の課題です。こうした中、くら寿司が独自の「体験型研修」や「コンテスト」を通じて、従業員エンゲージメント(EX)を高める取り組みに注力しています。
本記事では、くら寿司の挑戦と、それが外食産業全体に与える示唆について紹介します。
深刻化する外食産業の人手不足、その背景と課題
日本経済新聞社の2024年度飲食業調査によると、主要外食企業のうち25.4%が「国内出店が計画当初より減った」と回答しており、これは「増えた」企業(11.2%)を大幅に上回っています。また、厚生労働省のデータでは、「飲食物調理」の有効求人倍率が2.47倍、「接客・給仕」が2.68倍と、全職業合計の1.08倍を大きく上回る“超売り手市場”であることが明らかになりました。
このような深刻な人手不足は、団塊世代の退職、少子高齢化による若年労働力の減少、そして働き方への価値観の変化による転職率の増加など、複数の要因によって加速しています。この状況を打破するためには、企業が従業員にとって「ここで働きたい」と思える環境を整備し、EX(Employee Experience:従業員体験)を高めることが急務となっています。
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くら寿司の挑戦!体験型研修とコンテストでEXを向上
多くの企業がEX向上に力を入れる中、くら寿司は独自の取り組みを展開しています。その一つが、農業・漁業の現場に出向いて体験する社員研修です。米や魚の生産現場を実際に訪れることで、食の安全・安心への自覚や、生産者への感謝の気持ちを育みます。和歌山県での漁業研修では、海浜清掃や地引網体験を通じ、海洋資源保護への意識を高めるなど、企業理念を「自分ごと」として捉える貴重な機会となっています。
また、従業員の接客や調理技術の頂点を決めるコンテスト「KURA-No. 1 GRAND PRIX」(くらワン グランプリ)もEX向上に大きく貢献しています。2022年から始まったこの社内コンテストは、お持ち帰り・ネタ切り・デザートの3部門で腕を競い、参加者の技術向上とモチベーションアップに繋がっています。「美しさ」「スピード」「マニュアルに沿っているか」という評価基準を設け、全国の店舗でくら寿司クオリティーを維持するための重要な役割も担っています。2025年にはアメリカ、台湾からのスタッフも加わり、世界大会として開催される予定で、さらなる盛り上がりが期待されます。
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EX向上は離職率低下と顧客満足度向上へ繋がる
採用コンサルタントの谷出正直氏によると、現代の研修は講義中心の「座学型」から「参加・体験型」へと移行しており、学びを「自分ごと化」できる設計が求められています。また、企業の理念や価値観の共有が単なる労働条件だけでなく、従業員の定着とモチベーション向上に不可欠であると指摘しています。
くら寿司の鮫島教育担当マネージャーも、2024年の離職率が過去最低を記録した背景には、多様な研修制度とEX向上への取り組みがあると語ります。新入社員の9割がアルバイト経験者であることや、リーダー育成に力を入れていることも定着率の高さに繋がっているとのことです。これらの取り組みは、従業員満足度の向上を通じて、結果的に顧客満足度向上にも寄与するという好循環を生み出しています。人手不足が続く外食産業において、くら寿司のEX向上への挑戦は、今後の人材育成のモデルケースとして大きな示唆を与えています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。